「死ぬまでキャリアアップし続けて、自分で稼ぎ続けてください」生涯現役を謳う〝リカレント教育〟の正体【大竹稽】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

「死ぬまでキャリアアップし続けて、自分で稼ぎ続けてください」生涯現役を謳う〝リカレント教育〟の正体【大竹稽】

リカレント教育の矛盾〜現役を受動苦役にさせる威圧は無用!〜

 

■「人生100年時代」構想とは、高齢化社会の問題を解決するための一つの旗印

 

 このような定番「現役」の好例が国勢調査にも表れています。総務省統計局が発表している人口の統計表には、現役世代「15〜64歳」が一つの座標になっています。そして65歳以降の「現役ではない世代」は、いわゆる高齢として分類されています。「人生100年時代」構想も、高齢化社会の問題を解決するための一つの旗印になっています。内閣府は、高齢化の状況をこのように表現しています。

「令和2年には65歳以上の者1人に対して現役世代2.1人になっている。今後、高齢化率は上昇し、現役世代の割合は低下し、令和47年には、65歳以上の者1人に対して現役世代1.3人という比率になる」

「現役ではない」は高齢以外にも様々な表現ができるでしょう。例えば余生とか老後とか。そして引退後とか。

 このピンチ(?)を脱する窮余の一策が「人生100年時代構想」、つまり「国民が自主的に死ぬまでキャリアをアップし続けて、自分で稼ぎ続ける」仕組みを作ることなのです。ちなみに、この「キャリア」や「自主性」が紛い物であることは、前回、前々回で分析した通りです。

 この政策にモヤモヤする人間が多いことに、私はむしろ喜んでいます。むしろそのモヤモヤが健全の証だと断言しましょう。公明党は、「リカレント教育」の分析においてこのような調査を下地にしていました。

 

「生涯学習については、この1年間に「したことがある」と答えた人は58.4%だった。これに対し、社会人となった後に大学などで「学習したことがあるか」とのリカレント教育に関する質問では、経験ありが19.3%、「学習したことはないが、今後はしてみたい」が17.0%だった。それとは逆に、「学習したことがなく、今後も学習したいとは思わない」と答えた人は58.1%に上った。この「思わない」は、30歳代で46.1%、40歳代で50.7%、50歳代で56.9%と、働き盛りの世代でも顕著である。まだまだ、大学や大学院、専門学校などで「学び直し」をすることに抵抗感があるということであろう」

 

 そりゃ、私だって抵抗するわ! 「直し」って何なんですか? むしろこの「教育的指導」に、「直せ!」という威圧を感じ取ってしまいます。これまでの自分とはまったく別の人間になって、自分の責任で金を稼げってことですか? そんな命令を唯々諾々と受け入れる人は、相当の鈍感か奇跡的に従順な人間かのどちらかでしょう。

「現役」であることに「精強さ」が強いられるのなら、私は「現役」をやめます。私たちの「抵抗感」は正直なものです。このモヤモヤが証明しています。命令され圧力をかけられなくても鞭打たれなくても、私たちは本来、生涯現役なのです。お金を稼いでいなくても、現役ではいられるのです。でも、「現役」なんていうと曖昧になってしまうようですね。

次のページ使用目的がはっきりしているスキルや知識はいずれ早々と駆逐される

KEYWORDS:

オススメ記事

大竹稽

おおたけ けい

教育者、哲学者

株式会社禅鯤館 代表取締役
産経子供ニュース編集顧問

 

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

 

専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

この著者の記事一覧